とある飛空士への追憶
2013 / 12 / 12 ( Thu ) 07:10:48
原作:犬村小六、作画:小川麻衣子「とある飛空士への追憶」(ゲッサン/小学館)

 二つの大国間での戦争の最中、主人公シャルルは飛行機に次期王妃ファナを乗せ、本国まで送り届けます。それも、単機で敵国の支配する海域を横断してです。その任務の中で、二人は惹かれあうという王道の恋愛物語です。
 もちろん、送り手である主人公は身分制社会の中で一番下の階級で、しかも本国と敵国の人間のハーフです。すなわち、最も蔑視される存在です。最初から最後まで、この身分差が二人の間に横たわります。
作品梗概はともかく、この作品で大きなのはやはり「身分差」ではなく「死と蘇生」でしょう。「生と死」ではありません。むしろ、シャルルとファナは最初から死が描かれているのです。死に生まれ変わる、蘇生あるいは転生を繰り返すのがこの物語です。
 冒頭のファナの「玻璃の世界」は、一人の主体の死に近いものがあります。一方、シャルルは既に蘇生を終えた後でした。幼いころ屋敷奉公をしていたシャルルは、ファナとの出会いで蘇生していたことが二巻で描かれています。
シャルルの蘇生は、もちろん、作品の一つの山場第二巻の「生まれ変わる」です。そして、第四巻「覚醒」です。こちらはやや蘇生というには不適切かもしれませんが、個人的には蘇生としたいのです。
 何か、胃の腑の奥から湧き上がってくる、私の知らない、しかしずっと私とともに在った何か。根源的な感情。みずみずしく透き通った力。私の中でずっと眠っていた何か。思考へ。精神へ。肉体へ。私の中を突き抜け、満ちていった。
ファナの「覚醒」のシーンの言葉ですが、やはりこれはある種の蘇生にも見えるのです。生きているだけでは死んだも同然と見るならば、すなわち「玻璃の世界」を死とみなすなら、本当の私じゃなければだめならば。
単に、覚醒とは、死のない蘇生と捉えてもいいのかもしれないですね。

 また、この「みずみずしく透き通った力」は、私にとって切ない場面でもありました。それは、この力こそが王妃としての威厳だったのです。シャルルとファナは表面的な身分なんかではなく、「根源的」に異なる存在であることが、二人の別離が必然的であったことを物語っているのです。ファナが望んでも忌避しても、「本当の私」は「玻璃の世界」もそこから抜け出た世界=シャルルといたファナも、あるいは幼少期も、全ての私を一度に否定しうる危うささえ持っているように感じられます。
 そして何より興味深いのが、これまで読者に対して見せていた「玻璃の世界」から抜け出て、シャルルに自分の思いをストレートにぶつける「本当の私」を最後にあっさりと否定してのけたうえで、王妃の器こそ「みずみずしい」と表現されているのです。そんな風に描かれているわけではないのでしょうが、あまりのギャップに、私にはシャルルとだけではなく読者とも異なる存在であると告げられてしまったような気がするのです。読者である私の世界では、あの王妃の器を「みずみずしい」とはどうしても表現できないのです。ですからあのシーンは、読者である私にとってもファナ(シャルルと共にいた、ストレートに自分を表現する「本当の」ファア)の死のように見えました。そして、読者の私とも完全に異なる力学の働く貴族の世界に生きる存在としての別離を、ほんの少し感じてしまいました。

 この作品でもう一つ気になったことに「空」の存在があげられます。シャルルは空の上では身分が関係ないと言いますが、ファナとの関係においてはむしろ地上=島での生活の方がよほど身分が関係ないのです。
 これは結局、「空」とはどこかというのかが私にとって気になるのですが、どうにも難しい問題で、今のところはあまり気にしないようにしようと思います。
 それと、これはそもそも持ち込むこと自体間違っているように思われますが、二人にとっての日常/非日常という区別をしたとき、果たして「空」と「陸」どちらが日常となるのか、二人とも同じなのか異なるのか、このあたりも不誠実ながら気になってしまうのです。

 あれこれ書きましたが、個人的には今年読んだ漫画の中ではかなり素敵な作品だったと思います。
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タビと道づれ(感想2)
2013 / 12 / 01 ( Sun ) 00:00:00
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 前回、「わたし」と「あなた」について書きました。あの時、すごく不十分なものでした。今回は、その補足というわけではないのですが、また思ったことをつれづれと書きたいと思います。
 なお、この原稿自体は前回の投稿と同じときに書いたものがだったりするので、今回の投稿時とは少し違うことを感じているかもしれません。
 ネタバレが大きいので、続きを読むからお読みください。
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